大部分は円タクから
交通事故は年とともに増加してくる。昭和元年度に一六,一一〇件であった帝都の交通事故は、昨年度に至っては二八,九五三件に上り、今年既にこの上半期だけで一五,四五八件の多さを数え、然も全交通事故の約七割を占めている自動車の事故の如きは年々五割ずつの激増を示して来ているという戦慄すべき状態である。
一年中交通事故、殊に自動車事故の最高率を示すのは九月下旬より十二月までのこれからの三ヶ月間で、これは二三月頃の事故数の約二倍に達するのが普通であるから繁華な都会に住む市民達はこの危険期に際して一段の注意を要するのである。
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この六月までの今年度上半期の帝都交通事故一五,四五八件についてその内訳を見ると、(一)自動車事故一〇六八三件、その負傷者五二三〇人、死亡八二人、(二)自転車の事故二二〇二件、負傷者一六五九人、死亡一〇人、(三)自動自転車七八六件、負傷五五四人、死亡七人、(四)電車七一七件、負傷四一一人、死亡三五人、(五)被害者自身が事故の直接原因となったもの六六九件、負傷六五五人、死亡一二人、(六)牛馬車三七一件、負傷一九四、死亡二人及びその他で、六年末日までの帝都交通事故は一日平均八十六件、負傷者四十八人半、一日一人は必ず即死しているというおそるべき危険率を示している。
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交通事故の最も多いのは午後の三時から夕方の七時までの間で、午前の八九時のラッシュアワーに事故及び被害の少ないのは、通行人及び運転操縦者の注意が鋭敏であるのと、午後は全ての精神的生理的に疲労しているからであって、交通者もこれ等の時間には特に注意を要する訳である。
場所からいうと、大抵道路を横断する時に遭遇するので、交通の頻繁な所で起こる事故は割合被害が少ないが、大通りで交通緩慢な所程被害者が多く即死者などが続出するのが普通で、市街を歩く人は交通の頻繁な交叉点だけでなく車馬交通の少ない大通りでも十分の注意を怠ってはならぬ。
帝都交通事故の七割を占めている自動車の事故は、ほとんど大部分流し円タクが引き起こすのである。自動車の流しというのはおそらく日本だけのものであろうが、警視庁の調査によると市街を運転している自動車の六割までが空の流し円タクで、客の乗っているのが僅か四割ということになっている。不景気と乗客の激減で一〇〇マイル流して十円稼ぐより一五〇マイル流して十五円稼いだ方が得だというので流し円タクは益々強悪さを増してくる許りである。
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当局でも流し円タクに対しては厳格な態度でのぞみ、最近では銀座、浅草、新宿の盛り場に空車止めを設けたり、銀座に円タクのたまりをこさえたりして、流しの危険防止につとめているが、今日この方の事故はとても防ぎきれぬ状態であり、その他九月始めから市内四ヶ所に設定した自働信号機は今日まで好成績を示してはいるが今年内に市内十五ヶ所に増設し、行く行くは見張りの警官も人員が減るのであるから、交通の難所における交通人の注意は今後ますます慎重を要するわけである。円タク事案の困難は即死被害者に対する慰謝料及び傷害に対する治療費等の関係で今後ますますひき逃げ車を増加させる傾向を示して来ているから、特に円タクに注意怠りない様に、最後に帝都道路の完成に伴って児童の道路上における遊戯中の傷害が激増しつつあるから各家庭の主婦は子供の遊び場所にも十分の配慮が必要である。【警視庁交通課長檜垣一美氏談】
※東京朝日新聞昭和六年九月二十一日朝刊

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