女性相談 結婚は永遠の束縛か 1931/10/8

問:私は私より三つ年上のある青年と同棲している二十五歳の女です。
 丁度今から四年前彼の家から求婚され、そして、結婚の日取りまで確定した数日前に急に祖母が反対しだし、ツイに破綻の憂目を見るに至りました。私の家では祖母が絶対的な権力者です。しかるに、彼の家からその後も数度結婚をすすめて来ましたもので私はツイに単独の意思の下に家人には絶対秘して仲介者と彼の下にまいりました。私は職業上学校卒業と同時に家庭から離れ、独立で生活していますから家人には今日まで知れずに来たわけです。
 しかしいつまでも秘して置くに耐えられません。自分の犯した懊悩とはいえ私は一体どうなったら心の安住を得ることが出来るでしょう。一層この際彼と彼の家から一切の交渉を絶ったらとも考えますが、夫から並々ならず愛されている私が私の家庭の円満故に彼と離れねばならぬでしょうか?もし、離れたとすれば祖母は必ず何者かとの結婚を強いるのは分かりきっています。それをあくまで排けて長い未来の難航路を一人で押し切ることは甚だ危険な冒険事です。彼は又申します。「その点でも必ず祖母と衝突するのだから私達の問題についてもっと強くなれ、そして祖母に突貫しろ」と。彼のいうことはもっともだと思います。
 が、最近私は、「結婚は永遠に一人の女性を束縛してしまうものだ」ということを痛切に感じています。ほとんどわがまま一杯に成長してきた私が、その束縛された家庭にあって永遠にそこの人となれるかどうか?
 今となっても彼を愛する心に少しの変わりもありませんけれど、家人即ち祖母の反対、結婚後の私の自由の束縛等を考えます時、愛する心がいよいよ熾烈になる程、これらの問題もいよいよ深刻に考えられて来ます。先生私は一体いずれを求めたらいいものでしょうか?(秋田県A子)

義務と自由はたての両面

答:ものごとは何でもそうですが、殊に人生一生に関する事柄は尚更のこと、最も重要な点に注意を置き、その外のことの一切はその中心点を利するように処置してゆけばよいのです。
 あなたの問題は、彼とあなたと、祖母の気持ちと、それから彼の家庭とあなたの家庭との調和ということでありますね。この三つのうちで、何が最も重要事かというと、それは彼とあなたとが安全に結びついていることだということは申すまでもありません。
 そしてそれは既に実現されているのですからこの上は祖母の了解を得ればよろしいので、もしどうしても得られないとしても、ーーそれは悲しいことだがやむを得ないーーこうした謂わば第二次に属する問題のために第一次の問題即ち中心点をぐらつかせてはならないとお考えなさいませ。
 又、人はいつまでも同じ考えでいるものではありませんから、もう今頃は気が変わって、案内容易に承諾して下さって、祖母の意に反するという悲しい思いをしなくてもことが済むかも知れませんから、御良人の仰るように、勇敢に祖母にぶつかって御らんなさいませ。
 家庭と家庭との調和の問題にした所が、それをうるさいと感じて回避しようとする横着な心をもってこそ煩わしいのですが、血をもって自分達につながるもの、つまり自分達の一部だと考えて、大きな心になって凡てを包容する気になれば何でもない。
 又あなたは「自由の束縛」ということを考えておいでですがこれは単に観念の問題だと私は考えています。相対性をもって成り立っているこの宇宙に絶対の自由なるものは存在し得ない。私共の自由なるものには必ず義務なるものが付随している。故に私共が進んで負おうとする義務なるものが大きければ大きい程、私共の共有する自由は又、大きい。
「結婚は永遠に女性を束縛するものだ」と考えて、そしてその結婚から即ち束縛から逃れていて果たして幸福な生活が送れるものでしょうか?私はそうは思いません。
 男女合体した、人間として完全な生活に付随して来る凡ての義務を大手をひろげて迎えることによって、その男女合体の生活は益々健実に成長して行き、そこに人生の最大幸福、最大自由があるのです。
 義務のうちに自由があり、苦のうちに楽があるのだということをお考えになって、つまらない単なる観念などにお迷いにならぬようおすすめします。

※東京朝日新聞昭和六年十月八日朝刊

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