▽・・・婚期の娘さんを持っていられる大抵のお母さん方は「一生に一度の事だから」というので無理算段をしても一通りの物を取り揃えなさいます。甚だしい方になると一時にたくさん出来ぬからといって、長い年月をかけて溜め作りをなさいます。そしてたくさんの衣裳や調度品を一つの誇りとしていられるのです。
▽・・・こうして一生に一度の結婚に種々苦面して作られた衣裳や調度品は、さて実生活に入ったらどれ程役立っているでしょうか。荷厄介という言葉がありますがその通り、速い話が借家住まいをなさるにしても手一杯の家の中に荷物ばかりが充満して、その中で日常用いる必需品はといえば、極く僅かで足りるのです。そして手入れと始末に多くの時間を取られます。特に共稼ぎの御夫婦が増して来る今日では、生活を出来るだけ単純化してゆく必要を感じますから余分なものの手入れや始末をする余裕がありません。
▽・・・また今までの多くの例でみると結婚の時にたくさん持って来た衣類が生活難のために一枚一枚と手を離れて、結婚後一年経つか経たぬ間にあの華やかであった結婚機を忍ぶ衣裳の影も見えぬ程憐れな状態になった時、娘さんはどんなにかその衣装に執着を残していられるでしょう。
▽・・・ですからお支度をなさるお母さんが先ず自覚なすって、お支度は出来るだけ控え目に簡単にして欲しいものです。(波多野いそ子氏)
※讀賣新聞昭和六年十月十七日朝刊

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