重臣御前会議召集は決定的
去る十六日アメリカ代表ギルバート氏がオブザーバーとして理事会に出席して以来の聯盟理事会の雰囲気は漸次「日本は先ず撤兵せよ」というに歩調を合わせ進みつつあるので理事会の態度は今日の処日本の撤兵問題に集中されつつある状態であるが、これに対し日本政府の態度は既に⚫︎次声明したるが如く日本居留民の声明財産の安全が完全に保障され軍及び我満鉄線の安固が確保されさえすれば直ちに撤兵するものであって直接交渉開始及びその条件とは全然別箇の問題である。従ってこの点に関し聯盟乃至第三国より猜疑の眼を持って見らるるは何等いわれなき事であるとの見解を持して居るから撤兵問題に関しては理事会と日本政府との見解は今の処相背馳し全く正面衝突の状態に陥って居る。のみならず米国代表者の参加と同時に更に今回の我が国軍の自衛権発動に対して不戦条約の適用をもなし兼ねまじき機運さえ醸成しつつあり、このまま終局まで押し進めば我国は止むを得ず或いは断乎として国際聯盟より脱退というが如きすこぶる深刻なる機会に到達するものと見られている。この難局を打開する唯一の方策として満鉄付属地以外の地点にして比較的治安の維持されている方面より一部の軍隊を撤退して聯盟の面目を立てる外はないが、我が軍隊にして付属地以外に出ている兵員は極めて僅少にしてしかも、もともと治安の危険なる地点にのみ占拠しているのであるから、何れの地点も安全なるものなく事実上一部撤兵も自衛上全く不可能なる状態にある。かくて我国としては撤兵か、脱退か二途の中一を選ばねばならぬという危局に直面せんとしているのであるが、万一事態愈よ急を告げ、国際聯盟より脱退せざるを得ざるが如き場合に立到らば我国は国際関係上全く孤立に陥るものであるから閣議を以て決定し得らるる性質のものに非ず、何れにせよ西園寺公を初め重臣、閣僚に依って御前会議が開かれることは必然的の状勢にあるようである。
芳澤代表きょうの理事会で 堂々主張を表明せん
国際聯盟理事会と我が帝国政府との折衝は、米国招請問題を機として正面衝突を惹起しているが非聯盟国の招請に対しては夕刊所報の如く帝国政府は強硬なる質問書を提議して居り、更に不戦条約適用問題に就ても聯盟の警告に対しても声明を発する筈で、今十九日の公開理事会においては我が芳澤代表は、理事会の休会提議或いは代表欠席というが如き姑息な手段に出でず堂々出席してあくまで帝国政府の当初の主張を表明する筈であるが、聯盟理事会の空気は予想以上に硬化して居り、⚫︎きに我が芳澤代表が米国招請問題について提議せる法律的解釈問題の如き何等局面打開の端緒ともなってない折柄本日の理事会の成行は極めて注目されている。
⚫︎は判読不明文字
※讀賣新聞昭和六年十月十九日朝刊

コメント