三国干渉の歴史から 芳澤代表堂々力説 満洲事変の真相を関知せぬ欧洲人に絶好の教訓

【ジュネーブ十三日発聯合】(昼)休憩後の理事会は休憩前に比し緊張とまでゆかずともさらに重苦しい空気のうちに午後三時四十五分再開された。この会議に日本の立場を宣明すべき重大使命を負う日本代表芳澤大使はまず、理事会議長レルー氏の電報に対する日本政府の回答を朗読した後、満洲における日本の権益の由来から説き起こして左の如く述べた。

一八九四年日清戦役により日本は支那政府より遼東半島の割譲を得たのであるが、三国干渉によってこれを還付するのやむなきに至った。さらに日露戦役を経てポーツマス講和条約によりロシアは遼東半島の租借権を譲渡し、支那政府もまた一九〇五年の北京条約によってこの譲渡を承認したのである。日本は朝鮮満洲に対する切迫せる危機を避けるがために過去二回にわたって自国の存亡をすら賭したのである。従って満洲は自国自身の運命と直接不可分の関係を有するものであると確信しているのである。日本は満州において何らの領土的野心を抱くものにあらず。しかしながら満洲に政治上経済上の死活的利害を有するのである。日本は支那における各国の経済的活動に関する機会均等門戸開放の原則を擁護するものである。日本が満洲の開発に従事して以来、満洲の外国貿易は実に十倍するに至った。支那もまたこれら地方の開発によって無限の利益を得ている。年々数十万の支那人が満洲に移住し、過去二十ヶ年間において満洲の人口は実に二倍となるに至った。日本がかくの如く自国の安全を防護する闘争に多数同胞の生命と莫大なる資材とを犠牲にしたる日本が、満洲の開発に異常なる努力を捧ぐるはけだし不思議とするに足らぬところである。しかして満洲開発の第一要因は秩序の維持に存する。確固たる日本の対満政策により過去二十ヶ年にわたって支那を苦しめた支那の内乱が満洲における平和的勤労活動をかき乱すことをよく防止したのである。日本人は満洲に約二十万円即ち三十億スイスフラン以上の莫大なる資本を投資している。過去数ヵ年間日本の権益はしばしば支那人の侵略の目標となった。殊に国民政府が政権を掌握してより責任ある政治家すらも公然と遺憾極まる言辞をろうし満洲における日本の権益をことごとく強圧せよとさえ主張するに至った。のみならず東北政府当局の満鉄並びに日本人及び朝鮮人に対する態度の如きは最近特に挑戦的なるものがあったのである。中村大尉虐殺事件の如きは、支那の侮日態度の好例である。これらの暴挙に対してすら日本政府はあくまで和協的態度をとったのであるが、しかも政治的雰囲気が電光の如くなり、日本国民の感情がかくの如き事態の中にあって、激昂の極に達したことは実に避けがたいところであったのである。

一片の空論で解決できぬ

【ジュネーブ十三日発聯合】芳澤大使はその声明中においてさらに最近の事態を説明し、満洲における支那土賊並びに敗残兵の暴行事実を挙げて、日本居留民保護の必要を力説した後、「日本政府は居留民の生命財産の安全が、確保され次第直ちに鉄道付属地の現駐地に撤兵するにやぶさかでない。但し単に一片の空論をもって粉擾せるこの問題を解決することは出来ぬ。よろしく事態の実情に鑑み、過去の経験を基礎とし、実際的の解決を與えることこそ聯盟の使命である」芳澤大使の声明は前後三十五分にわたり、日本の立場を堂々宣明したもので、一般に多大の反響を與えた。理事会においてかくの如き痛切なる利害及び国策を遠慮なく吐露したのは実に本日の芳澤大使の声明を以て最初とする。

※東京朝日新聞昭和六年十月十四日朝刊

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