満洲事変は序幕 時局の展開は今後 露国の出様と独立派の抗争 昭和六年十月二日

我軍の行動に影響

【奉天特派員一日発】満洲事件はだいたい済んだという観測が昨今だいぶ拡がって来たようであるがこれは皮相な観測である。日支交戦の事態はやむを得ざる際における敗残兵の討伐と臨機必要に基く以外一段落を告げた形に見える。
 一般にはこの関係と政府の消極方針からして満洲事件は一段落で直ぐにでも舞台が回って外交交渉の幕に入ると見ている模様であるが、満洲内部の勢力、各派の睨み合いの現状と、日露支三国間のデリケートな諸関係に鑑みれば時局はまだまだこれからだという観が深く、少なくとも、
一、ロシアの日本牽制策がどこまで積極性を帯びてくるか
二、満洲独立国建設並びにこれに伴う各省独立とこれに関連して発生することあるべき満洲各地実力派の武力による争覇戦
この二つの重要かつ複雑なる大問題が目前に横たわっておりこれが我軍の行動に重大なる影響を及ぼすことあるべきを予想しなければならない。満洲における日露関係としてはロシアは現在東支鉄道の貨車を満洲里、ポグラニイチナヤ両国国境に集中する一方、
国境に兵力を集中して日本の行動を威嚇牽制している程度に過ぎないが、万一ロシアが積極行動に転じて兵を満洲に入れるが如きことあらば、北満の風雲は忽ち万丈の大波乱を免れざるべき形勢である。一方満洲独立国建設計画はそれ自体が可なりの波紋が予想されるばかりでなく、これは各省にある程度の独立を前提とし、この独立がまた各実力派間の争覇戦を予想されるので、この意味においても時局はほんの序幕で現にハルビン、チチハル、洮昂鉄道沿線等の北満の形勢は相当重大化せんとする気配となった。殊に今回の満洲事変は多年紛争せる日支間の関係より誘導されたる必然的爆発物であり、従って実質的にせよこの機会において日支満蒙問題の全般的総決算を断行せざるべからざる必然性をそれ自体のうちに包蔵しているので、一層時局の展開はこれからだという感が深い。

ロシア側密かに東支鉄をねらう 実権掌握を目論む

【ハルビン特派員一日発】今回の満洲事変についてはハルビンの労農側では詳細の情報の収集に努め一々本国政府に報告すると共に外部に対しては無気味な沈黙的態度を取り一切の面会をも拒絶してその接触を断っているが満洲事変は東支鉄道の事実上の独裁権を振るわんと労農側は密かに計画してその鋭鋒は既に表面化しつつある。すなわち労農側ではこの際労農側の実権をいよいよ鮮明に確立し置く必要ありとなし過般幹部が密かに会合協議した結果、表面支那側に好意的態度を装いながら裏面において同鉄道内の支那側幹部は東北政権の崩壊によって当然異動あるものとの見込みをつけ、従来取り来った支那側幹部の買収策を中止し断然高圧的態度にいで、目下労農側の一方的意志によって自由に東支鉄道を動かしつつあり、更に護路軍についても日支時局解決を待ち露奉協定による露支折半に基きロシア兵を入れんことを要求している模様である。

※東京朝日新聞昭和六年十月二日朝刊

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